子育て支援の進化の方向性について~妊娠期から育児期への切れ目ない支援~

2017年8月1日、厚生労働省が「子育て世代包括支援センター業務ガイドライン」という文書を公表しました。

これは、親の妊娠期から育児期にわたる子育て期間における切れ目ない支援を提供するために、子育て世代包括支援センターという新たな機関を市区町村において整備していくことを目的としています。

また、同日において「産前・産後サポート事業ガイドラインおよび産後ケア事業ガイドライン」という文書も公表されており、周産期における親支援の充実の方向性が示されました。

子育て支援というと保育園の待機児童問題がクローズアップされがちな今日この頃ですが、今後は育児期の前段階である妊娠期からの支援を充実させるとともに、妊娠期・育児期の支援の一体性を向上させる仕組みが構築されていくことになります。

以下では、両制度の解説を通じて、子育て支援の進化の方向性を確認します。

1.子育て世代包括支援センターについて

(1)役割と具体的な業務

子育て世代包括支援センターの役割は、「包括的な支援を妊娠期から子育て期にわたり、切れ目なく提供するためのマネジメントを行う」とされており、具体的には担当する地域におけるすべての妊産婦や乳幼児等を対象として

① 妊産婦及び乳幼児等の実情把握

② 妊娠・出産・育児に関する各種の相談に応じ、必要な情報提供・助言・保健指導を実施

③ 各種子育て関係機関による密なモニタリングが必要と考えられる妊産婦や保護者等については、関係機関による支援についても整理した「支援プラン」を作成

④ 保健医療又は福祉の関係機関との連絡調整

を行うとされています。

妊婦や乳幼児の状況を把握しながら、妊娠前から子育て期にわたって必要な支援が受けられるよう、アドバイスや関係機関との連絡調整を図っていくことを目的とした機関ということになります。

いうなれば、地域包括支援センター・居宅介護支援事業所(介護保険)、相談支援事業所(障害福祉)などの子育て支援版が整備されるということになります。

この制度は、フィンランドのネウボラという子育て支援策を参考にしているともいわれ、フィンランド大使館のホームページでは以下のように紹介されています。

【フィンランド大使館ホームページでのネウボラの紹介(2017年8月)】

ネウボラ(neuvola)はアドバイス(neuvo)の場という意味で、妊娠期から就学前までの子どもの健やかな成長・発達の支援はもちろん、母親、父親、きょうだい、家族全体の心身の健康サポートも目的としています。フィンランドでは妊娠の予兆がある時点でまずネウボラへ健診に行きます。ネウボラはどの自治体にもあり、健診は無料、全国でネウボラの数は850です。妊娠期間中は6-11回、出産後も子どもが小学校に入学するまで定期的に通い、保健師や助産師といったプロからアドバイスをもらいます。健診では母子の医療的なチェックだけでなく、個別に出産や育児、家庭に関する様々なことを相談でき、1回の面談は30分から1時間かけて、丁寧に行います。また、担当制になっているため、基本的には妊娠期から子どもが小学校にあがるまで、同じ担当者(通称「ネウボラおばさん」)が継続的にサポートをするので、お互いに信頼関係が築きやすく、問題の早期発見、予防、早期支援につながっています。医療機関の窓口の役割もあり、出産入院のための病院指定、医療機関や専門家の紹介もしてくれます。

また、利用者のデータは50年間保存されるため、過去の履歴から親支援に役立てたり、医療機関との連携に活用したりし、効率的に子どもとその家族を支援します。最近では親の精神的支援、父親の育児推進がネウボラの重要な役割となっています。また、児童の虐待や夫婦間DVの予防的支援の役割も担います。現在、ネウボラ日本版の導入が、三重県の名張市や千葉県浦安市など、全国の市町村で始まっています。また、厚労省もフィンランドをモデルにした妊娠、出産、子育ての包括的支援拠点づくりを各自治体に奨励しています。

同センターを整備することで、これまで市区町村や保健所、医療機関、子育て支援機関などの多様な関係機関が個別に実施している支援策の調整を行い、対象となる妊婦・乳幼児の必要性に応じてコーディネートを図っていくことで、子育て世代の不安や負担を軽減することが目指されています。

人員体制として、保健師や助産師、看護師、ソーシャルワーカーといった専門職が配置されることになっています。

(2)整備目標と実施主体

同センターは2016年4月1日現在、296市区町村で720か所が設置されており、おおむね2020年度末までに全国展開を目指すことが整備目標となっています。

実施主体としては原則として市区町村が想定されいますが、市区町村が実施できない場合には民間団体への業務委託も可能となっています。

2.産前・産後サポート事業および産後ケア事業について

(1) 産前・産後サポート事業

産前・産後サポート事業とは、「妊産婦等が抱える妊娠・出産や子育てに関する悩み等について、助産師等の専門家又は子育て経験者やシニア世代等の相談しやすい「話し相手」等による相談支援を行い、家庭や地域での妊産婦等の孤立感の解消を図ること」を目的としています。

対象者は、身近に相談できる者がいないなど、支援を受けることが適当と判断される妊産婦及びその家族とされています。

具体的な事業内容としては、

① 利用者の悩み相談対応やサポート

② 産前・産後の心身の不調に関する相談支援

③ 妊産婦等をサポートする者の募集

④ 子育て経験者やシニア世代の者等に対して産前・産後サポートに必要な知識を付与する講習会の開催

⑤ 母子保健関係機関、関係事業との連絡調整

です。

実施方法としては、

①アウトリーチ(パートナー)型:実施担当者が利用者の自宅に赴く等により、個別に相談に対応

②デイサービス(参加)型:公共施設等を活用し、集団形式により、同じ悩み等を有する利用者からの相談に対応

のいずれかによるとされています。

実施主体は、原則市町村ですが、民間団体への業務委託も可能となっています。

実施担当者としては、①助産師、保健師又は看護師または、②子育て経験者、シニア世代の者等、となっていますが、「産前・産後の心身の不調に関する相談支援」は、①の専門職を担当者とすることが望ましいとされています。

2016年度で182市町村で実施されていますが、さらなる増加が目指されています。

(2)産後ケア事業

産後ケア事業は、退院直後の母子に対して心身のケアや育児のサポート等を行い、産後も安心して子育てができる支援体制を確保することを目的としています。

産後ケアについては、韓国での取り組みが有名であり、日本でも産婦人科のクリニックや助産院が実施するケースが増えてきています。母親の「産後うつ」の予防対策として注目されています。

対象者は、家族等から十分な家事及び育児など援助が受けられない褥婦及び産婦並びにその新生児及び乳児であって、①産後に心身の不調又は育児不安等がある者、または② その他、特に支援が必要と認められる者、となっています。

具体的な事業内容としては、原則として以下の①、②を実施し、③~⑤は必要に応じて実施されます。また、利用期間は7日間という定めがあります。

① 褥婦及び新生児に対する保健指導及び授乳指導(乳房マッサージを含む)

② 褥婦に対する療養上の世話

③ 産婦及び乳児に対する保健指導

④ 褥婦及び産婦に対する心理的ケアやカウンセリング

⑤ 育児に関する指導や育児サポート等

実施方法としては、

① 宿泊型:病院、助産所等の空きベッドの活用等により、宿泊による休養の機会の提供等を実施(原則として、利用者の居室、カウンセリング室、乳児保育等を有する施設)

② デイサービス型:個別・集団で支援を行える施設において、日中、来所した利用者に対し実施

③ アウトリーチ型:実施担当者が利用者の自宅に赴き実施

のいずれかになります。

実施主体は、原則市町村ですが、民間団体への業務委託も可能となっています。

実施担当者としては、事業内容に応じて助産師、保健師又は看護師等を配置することが求められており、「宿泊型」で実施する場合には、24時間体制で1名以上の助産師、保健師又は看護師の配置が義務付けられます。

本事業は、2016年度で179市町村で実施されており、産前・産後サポート事業とともにさらなる増加が目指されています。

3.両制度を通じた子育て支援の進化の方向性

これらの新しい制度により、子育て支援は「妊娠前の早い段階から、全ての親や子どもを対象に、きめ細かい支援を実施する」方向に進んでいくことが分かります。

子育て世帯の不安や負担を軽減して出生数の回復につなげていくとともに、児童虐待などの育児の課程で発生する問題を未然に防ぐことが目指されています。

「こども保険」創設の議論がなされるなど、子育て支援の充実が医療や福祉に限定されず、国家の成長戦略に組み込まれる中で、「社会全体で子どもを育む」という考えに基づく取組みが今後も進展していくものと考えます。

保育園を運営している社会福祉法人や、産婦人科などの医療機関や助産院など、子育て支援に関連する事業を実施する事業者にとっては、さらなる活躍の場が広がることになりそうです。

▶▶▶ 「子育て世代包括支援センター業務ガイドライン」へのリンク

▶▶▶ 「産前・産後サポート事業ガイドラインおよび産後ケア事業ガイドライン」へのリンク