平成30年の介護報酬改定における論点の一つに、利用者の自立支援に向けた事業者に対するインセンティブ(動機付け)導入があります。
介護報酬の中に、利用者の身体機能の維持・回復や残存能力を活かした取り組みなどに対する加算を組み込み、介護保険の基本理念である自立支援を目指す試みといえます。
平成29年11月29日に開催された第153回社会保障審議会介護給付費分科会の「介護サービスの質の評価・自立支援に向けた事業者へのインセンティブについて」という審議事項の中で、具体的な考え方が示されました。
以下では、その内容について解説します。
1.施設入所における報酬とインセンティブ加算の関係について
利用者の自立支援を促す取り組みをした結果として要介護度が下がれば、それに応じて入所サービスの基本報酬も下がってしまうのが現在の介護保険の仕組みとなっています。
介護給付費分科会では、その点について「現行の介護報酬体系において、利用者の要介護度が改善すると報酬が減少し、このことが事業者に利用者の状態の改善に向けた取り組みを躊躇させている(状態改善に対するディスインセンティブが生じている)ので是正すべきとの指摘がある」としています。
しかし、要介護度が下がればサービス提供にかかるコストが減少することや、要介護度の低下により事業所の収支状況が悪化するデータが見られないといった理由から、「引き続き、要介護度に応じた報酬体系をとりつつ、利用者の状態改善に取り組むなど、質の高い介護サービスを提供する事業者が経営上不利にならないよう、質の高いサービスに対して加算等により評価をしていく方針を維持」する方針がまとめられています。
要介護度に応じて報酬が決定する仕組みは変わりませんが、利用者の自立支援につなげる取り組みを評価する加算を継続または新設していくことになりそうです。
気になる点は、要介護度に応じた基本報酬と自立支援を目指す加算のバランスをどう取るか、つまり基本報酬の水準を引き下げる代わりにインセンティブ部分を手厚く評価するのか、基本報酬の水準は維持してインセンティブにかかる評価を若干上乗せするのか、ということですが、今回の議論ではそこまでは示されませんでした。
そして、インセンティブの具体的な評価項目として取り上げられたのが褥瘡の発生予防と排泄機能の向上の2つです。
2.インセンティブの内容 その1~褥瘡の発生予防~
褥瘡の発生予防については、利用者のQOL向上や褥瘡ケアにかかるコストの削減という効果が期待されることから、インセンティブの1つとして新たに評価する考えが示されています。
具体的には、介護老人福祉施設および介護老人保健施設において、以下の要件を満たす場合に評価されることになります。
① 入所者全員に対する要件
入所者ごとの褥瘡の発生に係るリスクについて、「介護保険制度におけるサービスの質の評価に
関する調査研究事業」において明らかになったモニタリング指標を用いて、施設入所時に評価する
とともに、少なくとも3月に1回、評価を行い、その評価結果を提出すること。
② ①の評価の結果、褥瘡の発生に係るリスクがあるとされた入所者に対する要件
・関連職種の者が共同して、入所者ごとに褥瘡管理に関する褥瘡ケア計画を作成すること。
・褥瘡ケア計画に基づき、入所者ごとに褥瘡管理を実施すること。
・①の評価に基づき、少なくとも3月に1回、褥瘡ケア計画を見直すこと
同じ施設サービスでも、介護療養型医療施設の場合には、特定診療費における褥瘡対策指導管理(1日5単位)として既に評価されている項目になります。
3.インセンティブの内容 その2~排泄機能の向上~
排泄機能の向上は、利用者のQOL向上のほか、在宅復帰にもつながる可能性があることから、新たに評価の対象となります。
介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院において、
排泄に介護を要する利用者(※1)のうち、身体機能の向上や環境の調整等によって排泄にかかる要介護状態を軽減できる(※2)と医師、または適宜医師と連携した看護師(※3)が判断し、利用者もそれを希望する場合、多職種が排泄にかかる各種ガイドライン等を参考として、
・排泄に介護を要する原因等についての分析
・分析結果を踏まえた支援計画の作成、実施
を実施することについて、一定期間、高い評価を行う方向で検討が進んでいます。
(※1)要介護認定調査の「排尿」または「排便」が「一部介助」または「全介助」である場合等。
(※2)要介護認定調査の「排尿」または「排便」の項目が「全介助」から「一部介助」以上に、または「一部介
助」から「見守り等」以上に改善することを目安とする。
(※3)利用者の背景疾患の状況を勘案する必要がある場合等は、適宜、医師と連携することとする。
4.介護老人福祉施設・特定施設入居者生活介護におけるリハビリの評価
また、以前の介護給付費分科会において、介護老人福祉施設および特定施設入居者生活介護における入所者の自立支援・重度化防止に資するリハビリを評価する方針も示されています。
具体的には、以下の要件を満たす場合に、インセンティブの1つとして新たに評価されることになります。
【新設する要件】
・訪問・通所リハビリテーション、リハビリテーションを実施している医療提供施設の理学療法士・作業療法士・言語聴覚士、医師が、介護老人福祉施設を訪問し、介護老人福祉施設の職員と共同で、アセスメントを行い、個別機能訓練計画を作成すること。
・機能訓練指導員、看護職員、介護職員、生活相談員その他職種の者が共同して、当該計画に基づき、計画的に機能訓練を実施すること。
5.通所介護における心身機能の維持に関する成果の評価
施設入所サービス以外では、通所介護における心身機能を維持する観点から、成果に応じた評価が新設されます。
ある事業所において、評価期間内に通所介護を利用した者のADLの維持又は改善の度合いが一定の水準を超えた場合、当該事業所における通所介護サービスを一定期間、高く評価するというもので、具体的にはBarthel Index(※)という評価指標を用いて、利用者の心身機能をスコア化し、その点数が改善されれば加算が得られることになります。
※Barthel Index(バーセルインデックス)とは、以下の項目ごとの自立度に応じて点数をつける評価指標で、完全に自立の場合100点となり、60点以下であれば起居移動動作を中心に介助が必要、40点以下はほぼ全ての項目に介助が必要と判断されます。
点 数 | 質問内容 | |
---|---|---|
1 食事 | 10 | 自立、自助具などの装着可、標準的時間内に食べ終える |
5 | 部分介助(たとえば、おかずを切って細かくしてもらう) | |
0 | 全介助 | |
2 車椅子からベッドへの移動 | 15 | 自立、ブレーキ、フットレストの操作も含む(非行自立も含む) |
10 | 軽度の部分介助または監視を要する | |
5 | 座ることは可能であるがほぼ全介助 | |
0 | 全介助または不可能 | |
3 整容 | 5 | 自立(洗面、整髪、歯 磨き、ひげ剃り) |
0 | 部分介助または不可能 | |
4 トイレ動作 | 10 | 自立(衣服の操作、後始末を含む、ポータブル便器などを使用している場合はその洗浄も含む) |
5 | 部分介助、体を支える、衣服、後始末に介助を要する | |
0 | 全介助または不可能 | |
5 入浴 | 5 | 自立 |
0 | 部分介助または不可能 | |
6 歩行 | 15 | 45M 以上の歩行、補装具(車椅子、歩行器は除く)の使用の有無は問わず |
10 | 45M 以上の介助歩行、歩行器の使用を含む | |
5 | 歩行不能の場合、車椅子にて45M 以上の操作可能 | |
0 | 上記以外 | |
7 階段昇降 | 10 | 自立、手すりなどの使用の有無は問わない |
5 | 介助または監視を要する | |
0 | 不能 | |
8 着替え | 10 | 自立、靴、ファスナー、装具の着脱を含む |
5 | 部分介助、標準的な時間内、半分以上は自分で行える | |
0 | 上記以外 | |
9 排便コントロール | 10 | 失禁なし、浣腸、坐薬の取り扱いも可能 |
5 | ときに失禁あり、浣腸、坐薬の取り扱いに介助を要する者も含む | |
0 | 上記以外 | |
10 排尿コントロール | 10 | 失禁なし、収尿器の取り扱いも可能 |
5 | ときに失禁あり、収尿器の取り扱いに介助を要する者も含む | |
0 | 上記以外 |
また、評価の際には、以下の要件が求められることになりそうです。
・データの信頼性を確保するため、一定以上の利用者数があること
・要介護度が比較的重い利用者に対するサービス提供を確保する観点から、利用者のうち要介護3、4または5の者が一定割合以上であること。
・機能訓練以外のサービスの提供を担保する観点から、利用者の求めに応じて、定期的に食事及び入浴介助を提供した実績があること
そして、上記の要件を満たした通所介護事業所において、評価期間の終了後にもBarthel Indexを測定、報告した場合、より高い評価をする可能性も示唆されています。
上記のポイントを踏まえ、各事業所において加算取得のための準備を始めることをお勧めします。
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